好きだ、愛してる、どれだけ言葉を紡がれても、どれだけ体に触れられても、体から感覚が、脳からは意味がすり抜けて、何も残らない。
自業自得なのだ。全てが。
今までそれを遣って生きて来たのに、これから生きる為にそれが邪魔をする。
嘘なんて、吐いて来なければ良かった。

竜二は後悔が嫌いだ。後に悔いても何も残らないのだから、無駄でしかない。意味がないことだ。意味がないことは嫌いだ。それなのに今、後悔をしている。無駄だと、意味がないと、分かっているのに。しかも、竜二が一生関わることが無いと思っていた感情の類によって。隣に居る、男のせいで。

人と話すことを好み触れ合いを大事にしているらしい隣の男だが、竜二に対しては殊更その感情が強い。一緒に居ると、よく飽きないなと思うほどの言葉を紡ぎ、そして、体に触れる。その度に竜二は苦悩する。本来ならば、嬉しく思っても良い筈なのだ。それなりの感情を持っているからこそ、この男と付き合っているのだから。それなのに、竜二の感情の、一番深いところには何の感慨も浮かばない。何処か、冷めている。冷めた自分を嫌だと思うのに、身に沁み付いた生き方は変えられない。奴良リクオと言う男が、俺を変える程の力を持っていればいいのに、と思う。一方で、変えられる訳がないだろうなと思う自分も居る。裏と表を、嘘と真実を使い分けて来たことの代償が、これほど大きいものだとは、考えてもみなかった。好きだと言われても、愛していると言われても、信じることが出来ない。どうしても、疑ってしまう。

今夜も、名前を呼ばれ好意を明らかにされ、体を重ねても、純粋な感情が浮かばない。頭に浮かんだ好意も同意も、何処かで見ている自分が否定して立ち消えて、うまく唇に乗せられない。それでも竜二は心を隠したまま、嘘としてそれらを口にする。自分に、相手に、嘘を吐いて。顔を綻ばせる恋人に、痛みを感じて。それでも、自分の中で一番はじめに浮かび消えてしまったらしい感情を、なぞる。輪郭が解けて曖昧な概念と化したものをまた拾って、新たに形作る。それでリクオは喜び、小さく笑い、竜二を抱き締める。また、嘘が増えた。

お前本当は全然嘘吐きじゃないんだな、とリクオが言う。少し眉を下げて、彼なりに申し訳なさそうに。あんなこと言っちまって悪かったな、と続ける。竜二は何も言えない。恐らくは初対面のことを言っているのだろうが、これは嘘の上手さによるものか、竜二をちゃんと見ていないのか。ちゃんと見ていないなら、それでいい。焦点が合っていようがいなかろうが、リクオが満足しているならば、それでもいい。しかし、初対面で見破られた嘘が、知らぬ間に気付かれない所まで来ているのであれば、手遅れだな、と思う。気付いてくれれば、本音を話すことも出来る。話した上で別れを切り出すと言う選択肢も、ある。それでもリクオが気付かないうちは、嘘を吐くしかない。一瞬前の自分が好きだと思ったはずの相手を今の自分は信じられない、とは、とても口には出来ない。
武装の為の嘘が、傷を残して唇を動かす。

「…お前の知らない所で、俺は嘘を吐いてるよ」

漸く口にした一言は、彼に伝える最後の真実だった。










嘘を抱く光









2011/12/28